垂直方向の汚染防止、水平方向の汚染防止

海洋大学の博士論文に 垂直方向・水平方向の汚染対策に深く言及しているものを見つけました。
 
 
お忙しい方のために要約を。
 
 総括

 第 2 章で、すしチェーン店 A 社で問題となった大腸菌汚染について、汚染経路が 2 経路あることが判明した。
 
1 つは調理器具の床への直置きなどによる床面から作業台へ汚染が移行する垂直汚染、
2 つはダスターなどによる汚染拡大(水平汚染)である。
 
その結果、両方の段階について対策を講じることが重要であることが分かった。
 
また、ダスターにおいて、大腸菌群の検出は一般生菌数の多少に比例しているが、大腸菌の検出は一般細菌数の多少に関係しないことから、一般生菌・大腸菌群と大腸菌は異なる経路で侵入していると推定された。具体的には、一般生菌、大腸菌群は野菜などの原料から店舗に入り、人由来と思われる大腸菌は地面から靴などを介して店舗に入ってくると推定された。そこで、当面 4 つの対策
 
  1.  垂直汚染を遮断するための調理器具の床への直置き禁止
  2.  汚染拡大(水平汚染)を遮断するためのダスターの管理(使い捨て)
  3. 垂直汚染、汚染拡大(水平汚染)を防ぐための定期的なアルコール噴霧の実施
  4. 店舗外からの汚染を遮断するための靴の履き替え
を行うこととし、その有効性を 364 店舗の実地調査により確認した。
 
また、各店舗におけるパート・アルバイトを年齢、入社後の年数などで層別解析したところ、10 代の若い学生アルバイトグループと、60 歳代以上の男性グループにおいて、手洗いが不十分であることが分かった。
 
です。
 
実際の寿司チェーンでの検証がなされており 空理空論とは違った迫力があります。

【和訳】発症までに時間のかかったノルウェーでのサルモネラ食中毒事件

出典:Food Safety News(August 30, 2019)
訳者:広田鉄磨

By Joe Whitworth on August 30, 2019

2017年に ノルウェーのオスロ空港で起きたサルモネラ食中毒事件をもとに 研究者たちは 潜伏期間が長い場合もあることに注意を払う必要があると警鐘を鳴らしている。

2017年9月 単相のサルモネラ・ティフィルリウム属群が ノルウェー国立腸管病原性参照研究所によって特定された。journal Eurosurveillance. によれば 症例の広域分布は 当初 国内全域に配送されている食品の関与を疑わさせた。

発症までの潜伏期間は ゼロから16日で、事件が長期化するにしたがって 潜伏期間が長くなっていった。おそらくは 対策が実施されていくにしたがって 患者が暴露された菌の数が減少していったものと考えられる。サルモネラ菌での典型的な潜伏期間は 6時間から72時間といわれている。

研究者たちは 営業停止と調理場の刷新といった すでに確立されているような環境汚染対策をもってしてだけの衛生管理強化では 汚染源を除去することはできなかったと指摘している。

ジョー&ジュースカフェ

21名の患者は オスロ空港のジョー&ジュースカフェで 食事や飲料を摂った。このカフェは セキュリティーエリアの外にあり 空港を訪れる者であればだれでも利用できる。汚染菌は 汚染された食品または 感染した従業員によって持ち込まれたとみられる。

このカフェでは大量の生鮮食材が加工されているが カフェを経営する会社は ヨーロッパで7か国 ヨーロッパ以外でも事業所をもち グローバルなチェーンの一部として このカフェは運営されている。

患者のうち13名は女性で 年齢でいえば 17歳から60歳であった。患者は ノルウェーの10カウンティ―(県のようなもの)に散らばっていた。国際的な問い合わせをしてみても ノルウェー以外のヨーロッパの国々で症例の発生はなかった。

16の症例の発症時期は特定されており 2017年の8月23日から 11月8日まで広がっていたが 最初の週にほとんどが集中していた。15症例で暴露日と発症日が特定されており 潜伏期間は ゼロから16日で、事件が長引けば長引くほど 潜伏期間もまた長くなる傾向が見られた。8月の潜伏期間のメディアン値は4.5日(分布幅:ゼロから5日)、9月以降は 9日(分布幅:2日から16日)であった。

8月22日から28日までの 初期のケースでは カフェに8月中旬に導入された汚染が原因であったとみられる。続く数週間の間 営業は継続されており その間 客や従業員は その汚染に継続的に暴露されていたと考えられる。8月から11月にかけての 潜伏期間の伸長は 汚染源が(食品起因ではなく)環境起因となり 客はサルモレラに暴露されているものの その菌数は減少していったものとみられる。

2017年9月中旬 ノルウェー公衆衛生機関に属するノルウェー国立腸管病原性参照研究所の人間部門が 反復配列多型解析法が 非常にまれなパターンを示していることを解析した。ノルウェーの5つの市に居住する患者は 発症の前の週には国外旅行をしていなかったと報告していた。

最初の4ケースについて 19ページからなるサルモネラ専用のトローリング調査にかけてみた。この調査ののち 調査を 興味のある分野に絞り込み そこには発症前の国内旅行とオスロ空港のカフェでどのようなものを食したかの質問を含ませておいた。

21ケースのすべてで 2017年8月18日から10月13日の間に カフェで食事または飲料を摂ったことが 明らかになった。患者たちが食したものは 少なくとも 3種類の違うサンドイッチ、7種のフルーツであって 調査したすべてのケースに共通する食材というものはなかった。

 カフェは何度も営業停止し 再開していた

環境のふき取りと食材サンプルが 9月の現地踏査時、および11月の環境拭き取り時にノルウェー公衆衛生機関によって集められた。調理場の排水 水道蛇口、鉄製の棚の上の水滴の合計6つで 症例原因菌が陽性と出た。 10個の食材サンプルはすべて サルモネラは陰性であった。

「調査によって カフェにおける衛生管理のための定常作業の弱点のいくつかが特定された。それには 調理場の清潔区・汚染区の仕分け、作業の目的に応じた洗剤の選択、どのシンクで手を洗い、食材を洗い、皿を洗うのか といったところが注意されるべきであろう。また ユニフォームの洗濯が適切でなく 工程や原材料に関連する潜在的な危険性の評価や管理が欠如していたといわざるを得ない」と調査書は結ぶ。

10月には 会社が集めた環境サンプルが 民間の試験室に送られ分析され、結果は ノルウェーの獣医学研究所に送られて検証を受け、NRLとNIPHで型の特定を行った。カフェの運営会社からは どの食材問屋から食材を調達しかたの記録が提出され いくつかはノルウェーの外からであった。

9月22日に カフェは 10月13日の再稼働まで 暫定的な営業停止を行った。しかし 10月14日に は確定前の予備試験で陽性と出たため 再度営業停止となった。11月7日には 一検体でサルモネラ陽性が疑われ カフェは再度営業停止を行った。11月8日と15日のサンプルでは陰性であり 11月21日の公衆衛生機関での拭き取りでも陰性を確認した。

研究者たちは 営業会社は管理手段を責任をもって実施し それは自発的な営業停止、調理場の刷新 および隅々までの清掃であったが (いったん環境に住み着いてしまったサルモネラという)汚染源を除去するのは困難であった といっている。

「このケースは 環境由来の汚染というべきで 調理場の排水、水道蛇口、鉄製の棚の上の水滴などから採取したサンプルが陽性であったことから そう推定される。製造環境の踏査で 通常の調理場の衛生管理・食材ハンドリングの定常作業には弱点があることが明確となり そのことが 食材の交差汚染の原因となり 事件の長期化の引き金を引いたと推察される」

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訳者追記: いままで 飲食店の衛生管理は 3種の温度管理の徹底であるとか 衛生区と非衛生区の隔離が重要とばかり強調されていたが、 衛生区とは言え 排水溝のない調理場はないといっていいだろう。また グリストラップの清掃など 調理中にやってはいけないといわれながらも 守られていないことも多々ある。今までと多少目線を変えて 使用水ばかりではなく 使用後の水の管理をも主軸に据えるべきではないだろうか

【寄稿】カカオの育成とチョコレート製造<後編>

(一社)食品品質プロフェッショナルズ 矢野 真理子

チョコレートの製造

 ダークチョコレートは主に、砂糖、カカオマスやココアバターから(ミルクチョコレートの場合、粉乳も)つくられます。製造にあたり、チョコレート中にざらつくような粒子(数十μm以上)を残さないようにする必要があります。微粒化した原材料を使用する場合も考えられますが、工業的にはチョコレートの各原材料を混合してペースト状にした後、レファイナーのそれぞれ回転するロール間の隙間を通して、含まれる固体粒子を粉砕する場合が多いです。粉砕された原料は、コンチェで撹拌回転して練り上げられ、練り上げにより粘度が低下して流動性が付与され、液体のチョコレートとなります。併せて揮発性物質の揮散や均一化による香味変化も生じます。
 液状のチョコレートは、ココアバターが形成しうる複数種類の結晶多形のうち、求める物性の結晶として結晶化させるため、複数段階での温度調整と撹拌といったテンパリングを経て、成型されてから適切に冷却され、チョコレートとなります。

ココアバターの結晶多形とテンパリングについて

 カカオマスには、55%程度の油脂分(ココアバター)が含まれており、ココアバターは他の油脂同様、グリセロール骨格に三分子の脂肪酸が結合した、トリアシルグリセロールの混合物です。うち80%程度が、グリセロール骨格の2-位(2番目の炭素)に不飽和脂肪酸のオレイン酸、1-位と3-位に飽和脂肪酸(主にステアリン酸もしくはパルミチン酸)が結合した構造で、これらが形成する混晶が、多形現象を含めたココアバターの性質を決定しています。
 ココアバターには、6種類の結晶多形が存在し(最新の研究では、うち2種類が中間的な多形で同じとみなせるため5種類との報告もある)チョコレート業界では、1996年にWille and Luttenに命名されたⅠ~Ⅵ型が用いられることが多いです。結晶はⅠ~Ⅵの数字が大きいほど融点が高く、密な構造で安定な結晶です。Ⅰ~Ⅵのうち、割った際の良好なスナップ性とツヤを持つ結晶はⅤ型(融点32~34℃、比較的安定)のみであり、結晶粒径が細かく、口どけがなめらか、室温で溶解しにくく口の中で溶ける融点も含め、テンパリングにおいては、Ⅴ型として結晶化させる必要があります。
 なお、不適切なテンパリングで、Ⅳ型として結晶化させた場合、比較的柔らかくスナップ性がないチョコレートとなり、またⅣ型は時間とともにⅤ型に転移しますが、その際、固体粒子間の油脂が一部表面へと押し上げられ、ブルームが生じます。なおⅥ型(融点34~36℃)はⅤ型より安定ですが、通常の条件で液状のココアバターからは直接Ⅵ型の結晶とはならず、固相転移でのみ生成します。つまりⅤ型として適切に結晶化されたチョコレートも、数か月~数年等の長期保存でゆっくりとⅥ型に転移し、その際ブルームが生じます。

 実際のチョコレートには、砂糖他、ココアバター以外にも原材料が使われるため、分子構造はより複雑です。

2019年5月7日 更新

【寄稿】カカオの育成とチョコレート製造<前編>

(一社)食品品質プロフェッショナルズ 矢野 真理子

カカオの木


先日、プライベートで1時間程度のチョコレートの学習ツアーに参加する機会があり、チョコレートやカカオについて興味のままに調べてみました。自身で十分理解しているとは言い難いのですが、せっかくなので紹介致します。
 なお、メーカーや業界団体等のチョコレートに関連するホームページと「チョコレート カカオの知識と製造技術」(Stephen T Beckett著、古谷野哲夫 訳、幸書房)を参考にしました。しかし、私の独断と偏見で取捨選択、要約や改変等をしています。参考図書には、製造技術、粘度や流動性、分子構造をはじめ、もう少し広範で詳細、かつ正確な内容がわかりやすく説明されています。
 ちなみに写真は、参加したチョコレートの学習ツアーで撮影させてもらった、室内で生育中のカカオの木です。日本だと寒いのでヒーターで温めているそうで、案内員のお姉さんは、自分が案内員として来たときよりも成長していると仰っておられました。

チョコレートの原料 カカオの生育

 チョコレートの原料となるカカオは、中南米を原産とし、赤道をはさんで北南緯20度以内の適正環境地で栽培されます。カカオの木の樹高は12~15メートル程度と比較的低く、熱帯雨林の低層で生育し、商業的農園では、ココナッツやバナナなどを間に植えて陰をつくることが多いです。カカオの木は多くの病気や害虫に晒されており、カプシッド、黒果病、ウィッチズブルーム、カカオポッドボーラー等があります。
 カカオ豆の香味は生産地域により異なりますが、カカオ豆に含まれる油脂も生産地域によって異なり、一般に木の生育地が赤道に近いほど油脂は固い、つまり融点が高い傾向があります。カカオの木には10万個もの小さな花が、枝や幹に咲き、うち一部が5~6か月程度で、10~35cm(200gから1kg以上)のポッドに成熟します。ポッドの色や形は、品種によって種々で、1個のポッドには30~45粒程度の白いパルプに包まれたカカオ豆が入っています。収穫とともに、カカオ豆はポッドから取り出され、パルプが付着した状態で1週間程度発酵されます。発酵中温度が上昇し、カカオ豆が発芽できなくなるとともに、発酵によってチョコレートの香味成分の前駆体が生成されます。発酵後のカカオ豆は、カビが生えないよう天日で十分に乾燥され(一部地域では熱風乾燥の場合も)、麻袋に詰められて、主に船積みで輸出されます。

チョコレートの原材料となる、カカオマスの製造

 カカオ豆には、砂や植物組織等の異物が付着している可能性があり、マグネットや吸引、風力等によるクリーニングがなされたあと、ロースト、ウィノーイング(シェル(豆の外側の皮)とジャーム(胚)を取り除き、ニブ(胚乳)のみを残します。シェル剥離)、カカオニブの粉砕処理が施され、チョコレートの原材料であるカカオマスとなります。方法により各工程の順序は異なります。ロースト中の高温と乾燥で多くの揮発性物質、特に酢酸が除かれて酸味が減少し、メイラード反応をはじめとした化学変化により特有の色や香味を生じます。粉砕処理は、カカオ粒子を小さくする(これ以降の後工程でも粉砕されます)ことと、胚乳からできるだけ多くの油脂を遊離させるために粉砕が行われます。油脂は細胞内(幅20~30μm)に含まれ、粉砕で細胞を破壊することにより油脂が遊離して粘性が低下します。

2019年4月2日 更新

【寄稿】リスクコミュニケーションとハザードコミュニケーション

(一社)食品品質プロフェッショナルズ 西山 哲郎

 食品安全に関するリスクコミュニケーションが関係者の努力にも関わらず、うまくいかないとの指摘が多い。今回は、労働安全衛生や防災などで使われるハザードコミュニケーションと比較することで、なぜうまくいかないかを考えたい。

 食品安全におけるリスクとは、「食品中にハザードが存在する結果として生じるヒトの健康への悪影響が起きる可能性とその程度(健康への悪影響が発生する確率と影響の程度)」と定義されている(内閣府食品委員会)。
 リスクコミュニケーションとは、リスクについて関係者が情報や意見を交換することにある。
 日本の今日における食品は、通常の使い方をしている限りは、ほぼリスクは無視できる。すると、「輸入食品のリスクコミュニケーション」や「食品添加物のリスクコミュニケーション」といったこと自体が、ヒトの健康への悪影響が起きる可能性とその程度がほぼ無視できると考えられ、そもそもリスクがほぼないところで、何の情報や意見をやりとりするのかということになろう。
 同様にゼロリスクはないのだから、無視できるリスクはないとの意見もあろう。食中毒事案はなくなっておらず、今まで見過ごしていた食中毒が科学や関係者の尽力で明らかになっている今日、そのような食中毒を明確にするためにはコミュニケーションが重要であると思われる。ゼロリスクはないのは事実であるが、食品安全上のリスクは、健康への悪影響が発生する確率と影響の程度であるので、確率がゼロであるのか、影響がゼロであるのかは、明確に伝える必要があると考える。おそらく、この世の中、全てのことに確率がゼロということはない。しかしながら、影響がゼロということは多いのではないか。ゼロリスクはないというのは、確率がゼロということはないと言っているのだとしたら、やや乱暴な議論かもしれない。

 さて、労働安全衛生や防災では、リスクコミュニケーションではなく、ハザードコミュニケーションが行われている。労働安全衛生におけるハザードコミュニケーションでは、国連の世界的な制度の下に、日本や欧米でも化学物質を中心に法的な規制がなされている。もちろん、規制にあたって、影響の程度は科学的に検討されているが、コミュニケーションの中心は危ない化学物質を明確にして、それに対する安全策を徹底することである。つまり、ハザードそのものを明確に表示して、周知徹底することが図られている。影響の程度が無視できる化学物質は法的規制の対象ではない。防災においても同様で、影響の程度を科学的に検証した結果、地域の自然災害がハザードマップなどにまとめられ(つまり表示され)、自然災害に対する周知活動が行われる。
 一部の化学物質の規制に関する法令は、規制対象の化学物質を使った小売用の商品にも適用されるが、その時に安全情報はその他の情報と明確に区分することが求められている。塗料でいえば、色やどのような素材に塗布できるかといった商品の選択に関する情報と使用された化学物質の情報は明確に分けられる必要がある。これは、商品の選択に関する情報と安全に関する情報が一括して表示される食品表示とは対照的である。

 ノロ・ウィルス、腸管出血性大腸菌O157、リステリア・モノサイトゲネスなど、食品安全上、健康被害が収まっていないハザードも多い。一部の食品の風評被害につながるといった懸念もあるだろうが、風評被害がでないようにリスクを伝えるのが、本来のリスクコミュニケーションであろう。防災において、不動産価格が下落するので、ハザードマップが改竄されるということがあってはならないように、食品安全リスクも、課題が残っている限り、問題を起こしているハザードのコミュニケーションにもっと注力すべきかと考える。

 東日本大震災から8年経過し、改めてハザードとリスクについて考えてみるのはどうだろうか。

2019年3月13日更新

【寄稿】ISOマネジメントシステムの統合について

(一社)食品品質プロフェッショナルズ理事  髙瀨 正昭

 ISOマネジメントシステムには品質マネジメントシステム(ISO 9001)をはじめ、環境(ISO 14001)、労働安全(ISO 45001)、情報セキュリティ(ISO 27001)等様々なシステムが存在し、事業者が事業運営上必要なシステムを選択し自社の経営の仕組みとして取り入れている。
 これらのマネジメントシステムは、初期の頃は企業経営の仕組みがマネジメントシステムと乖離していることが多かったこともあり、厳密に要求事項を遵守することが求められた。そのため、ISOの為に多量の書類の作成を要求されるなど、経営の効率化とは対極の仕組ととらえられるようになり、ISOは実務と一線を画すものとしての認識を芽生えさせた経緯があることは皆様ご存じのとおりである。
 このようにISOが現実離れをしているという批判は内外から噴出し、問題となったため、これまで数回にわたりマネジメントの本質に回帰すべく改訂が行われ、現在に至っている。
 現在、各分野で最もなじみが深いのはISO 9001、 ISO 14001、 ISO 27001、 ISO 45001(旧OHSAS 18001)等であると考えられるが、これらのマネジメントシステムには統合を視野に入れた、ハイレベルストラクチャーが導入されている。
 ハイレベルストラクチャーとはこれまでバラバラだった規格の章構造が統一され、すべてのマネジメントシステムに適用できる共通の構造、テキスト、用語の定義を定める仕様である。
 この共通という言葉がキーワードとなり、それぞれ個別に認証取得していたマネジメントシステムを一括して取得できるベースが構築されてきている。

 それではこの一括認証が本当にメリットがあるのかどうか検討してみよう。

メリット:
・システム統合により、審査費用のコストダウンが見込まれる
・審査の期間が、バラバラで認証を取るより短期間で済む
・マニュアルが1つで賄える(マネジメントシステムの簡素化)
・リスク管理が効果的に実施可能となる
・マネジメントへのインタビューが1回で済む

デメリット:
・1回の審査日数がかなり長くなる
・事務局の対応が煩雑になる(審査機関との調整、内部監査の実施、他)
・適用範囲がそれぞれのマネジメントシステムで違う場合の対処が煩雑
・第三者審査員がすべてのマネジメントシステムに通じていない場合、
 費用、時間のコストメリットがなくなる

 以上見てきたように、マネジメントシステム自体は統合に向けて整備されているが、審査側、受審側の環境はまだきちんと整備されていないと言わざるを得ない状況のようである。
 特にISO事務局は全てのマネジメントに精通した要員を確保しないと、内部監査や本審査での対応がおろそかになる恐れがあり、またそれらのスケジュール調整に相当の時間がとられることも覚悟しておく必要がある。
 マネジメントシステムは事業継続を効果的に行うための、共通の基準を定めたプラットフォームであることを忘れてはならない。
この原点に立ち返り、本当に統合審査にメリットがあるのかどうかを吟味し、それから実践していくことが何より重要ではないかと考える次第である。

2019年2月3日 更新

【寄稿】2019年は改正食品衛生法の政省令公布に注目

(一社)Food Communication Compass 代表 森田 満樹 氏

 2018年6月13日に「食品衛生法等の一部を改正する法律」が公布されました。主にHACCPPの制度化が注目されていますが、今回は15年ぶりの改正とあって食を取り巻く環境の変化や国際化などに対応して様々な観点で見直しが行われています。
 改正ポイントは以下の7つですが、これらは互いに関わる部分もあり、食の安全規制の強化につながっています。

1. 広域におよぶ “食中毒”への対策を強化

2. 原則全ての事業者に“HACCPに沿った衛生管理”を制度化

3. “営業届出制度”の創設と“営業許可制度”の見直し

4. 食品の“リコール情報”は行政への報告を義務化

5. “輸出入”食品の安全証明の充実

6. 特定の食品による“健康被害情報の届出”を義務化

7. “食品用器具・容器包装”にポジティブリスト制度導入

 2018年下旬からは各項目において具体的な内容を詰めるべく、一部は検討会等の場で法改正に基づく政省令案が検討されてきました。そして、2018年末には「政省令案の検討状況に関する説明会」も全国で開催され、具体的な内容が明らかになってきました。
 これらスケジュールは、項目によって異なります。

 1は2019年の前半に施行され、2~5は2019年前半にパブコメを経て政省令が公布されます。6は2019年前半に薬事食品衛生審議会と食品安全委員会の審議を経て、2019年後半に省令が公布され、7は2019年前半にパブコメを経て政省令が公布され、その後や薬事食品衛生審議会と食品安全委員会の審議を経て2019年後半に省令が公布されます。いずれにしても2019年中に制度の詳細が明確になり、2020年以降の施行となります。

 食品関連事業者は、新しい各政省令に基づいて適切に対応することが喫緊の課題となります。そのためには2019年に政省令の各項目の内容を知り、どのようにかかわりあっているか、まずは全体像について理解することが求められます。現在、政省令に関する検討会は3つあり、それぞれが現在進行形で進められており、食品品質プロフェッショナルの方々は最新情報を入手しておく必要があるでしょう。

 また、今回の法改正によって食の安全レベルは向上し、消費者にメリットをもたらすことになるでしょう。消費者も法改正について知り、食品安全基本法の役割にもある「知識の習得や情報の収集により自主的・合理的に行動すること」が望ましいと考えます。 法改正に伴い食品関連事業者が食品安全の取組について消費者とどのようにコミュニケーションをしていくのか、考えていきたいと思います。

2019年1月10日 更新

【寄稿】石坂公成博士とウルリッヒ・ベック博士

(一社)食品品質プロフェッショナルズ理事 西山 哲郎

 石坂博士が、2018年7月6日に逝去された。私は、石坂博士について、それほど詳しいわけではない。ただ、アレルギー関連の文献を読む中で、免疫学者である石坂博士が、1966年に食物アレルギーだけでなく、喘息の原因ともなる免疫グロブリンE(IgE)を発見したことは知っていた。石坂博士は、米国の大学で研究され、研究所の所長にもなったが、共同研究者であり妻である石坂照子博士の希望もあり、70歳で引退すると、照子博士の故郷である山形県での生活を始める。
 IgEの発見とアレルギー発症の機序解明により、数々の賞を授賞され、ノーベル賞候補にもなった。石坂博士の発見がなければ、アレルギーというもの自体が解明されていなかったわけで、その貢献を考えるとノーベル賞でも足りなかったと思われる。かくいう私も喘息症状があり、現在は発作を抑える薬で日常生活をおくることができるが、これも石坂博士がIgEを発見してくれたおかげである。
 IgEの発見は、夫婦の共同研究によるものであるが、研究途上で、夫婦がお互いにIgEを背中に注射していたとのことで、ジェンナーの種痘開発を思い起こされる。

 ドイツのウルリッヒ・ベック博士は、2015年1月1日に逝去された。ベック博士は、リスクについての大家であり、チェルノブイリ原発以降の危険社会について、様々な考察をされてきた。ベック博士は、リスクに関する社会学者であり、石坂博士は免疫学者であるので、直接のつながりはない。
 しかしながら、ベック博士の妻も社会学者であるエリザベート ベック=ゲルスハイム博士であり、共著「愛は遠く離れて~グローバル時代の「家族」のかたち」など共同研究者でもあった。
 「愛は遠く離れて」はベック博士夫妻の愛情について書いた本ではなく、家族制度が変容し、家族が血縁から変質していることを指摘している。一方で、私はまだ読んではいないが、石坂博士は、「結婚と学問は両立する~ある科学者夫妻のラブストーリー」という著書を2002年に出版されている。こちらは、ご夫婦の話なのだろう。ベック博士は、元旦に公園を散歩中に、夫婦で次の著作について話している最中に心臓発作でなくなっている。遺作である「変態する世界」は、エリザベート ベック=ゲルスハイム博士を中心にまとめられた。

 石坂博士とベック博士は研究分野も異なれば、年齢も異なるが、夫婦で研究を続け、おそらく円満な夫婦であったことが共通している。また、講演会などお話を聞きに行こうと思えば、機会はいくらでもあったのに、雑事にかまけて後回しにしてしまったことは、私にとって痛恨の極みである。


2018年12月1日更新

【寄稿】東京都主催の食品衛生自主管理推進講習会参加報告

(一社)食品品質プロフェッショナルズ理事 西山 哲郎

2018年9月12日に東京都主催で開催された食品衛生自主管理推進講習会で食品防御について取り上げられたので報告したい。

食品防御については、厚生労働省を中心に進めてきたが、昨年、農林水産省もパンフレットを出してきている。厚生労働研究班のガイドラインは、ハード重視であり、ハードを導入すれば、食品防御は対策万全との誤解を招きかねないものであった。
その後、農林水産省は、人を中心とした対策に重点をおくべきとしている。今回の東京都の講演の内容は、ハードも人も重要ということであった。講習の中で、CARVER+Shock法の紹介もあったが、食品工場で実際にどう適用するのかの説明はなかった。
また、事前に問屋業(食品の卸売業者のうち、実際に食品を在庫する業態)に対して、食品防御に関するアンケートを行い、その集計結果も講習の中で紹介があったので合わせて報告する。

回答が36社であり、30問に対して回答する形式である。

まず、食品防御の対策をしている会社が61%、対策をしていない会社が39%であった。
それでは、何をもって食品防御対策としているのか。
個別具体的な質問で61%以上が、「はい」と答えているのは下記の項目である。
「各従業員の業務内容や勤務状況を把握している」
「新規採用者は、朝礼等の機会に紹介するなど、全従業員に認知させるように努めている」
「施設が無人となる時間帯に防犯対策を講じている」
「施設の鍵は管理方法を決め、適切に管理している」
「出入り口や窓など外部から侵入可能な場所を特定し、施錠している」
「納入製品・数量と、発注製品・数量との整合性を確認している」
「保管中の在庫の紛失や増加、意図的な食品汚染行為の形跡等があった場合は、責任者に報告し必要な措置を講じることとなっている」
「敷地内で器物の破損、不要物、異臭等に気が付いた時には、すぐに責任者に報告し必要な措置を講じることになっている」

上記の項目に共通しているのは、食品防御特有の項目ではないということである。労務管理、施設管理、防犯対策、在庫管理など、通常の仕事の一環、あるいは延長線上に食品防御があるということであろう。

一方で、「はい」が39%以下というのは下記のような項目である。
「自社製品に有害物質の混入などが発生した場合、まず従業員等が疑われることを説明している」
「監視カメラにより施設内の監視を行っている」
「訪問者の持ち物を確認し、不要なものを持ち込ませないようにしている」
「意図的に有害物質を混入しやすい箇所を把握し、カバーなどの防御対策を講じている」
「消毒薬や殺虫剤などの有害物質を紛失した場合は、責任者に報告し、速やかに対応することになっている」
「井戸、貯水、配水設備への侵入防止措置を講じている」
「監視カメラにより敷地内(屋外)の監視を行っている」

まず、汚染の可能性、訪問者の持ち込み物、井戸・貯水の監視などは、食品製造業が念頭にあり、どこまで問屋業の実態に合っているか議論があろう。もちろん、問屋業の中には、小分け作業のように開封して加工する業者もおり、そのような作業を行っている場合は、食品製造業に準じた対策も必要であろうが、段ボールに入った加工食品を製造業者から仕入れて、在庫した上で、小売業者に販売するのであれば、井戸の管理まで必要かは疑問であろう。もちろん、井戸がターゲットになり、従業員が腹痛でいなくなった隙に、倉庫の食品を汚染したらどうなるかといったことはあるかもしれない。
しかしながら、通常の発想であるなら、問屋業の倉庫に侵入して汚染するより、小売業者の売り場の方が接近しやすいのではないか。カメラについても導入率が製造業に比べて低いようである。

食品防御は、食品安全以上にサプライチェーンで考えていく必要がある。食中毒菌が相手であれば、意思がないので確率で対処できるが、確信犯が相手であれば、サプライチェーンの弱いところを意図的に狙ってくるからである。
問屋業が標的にならないことを祈ると同時に、問屋業として何が必要か、もう少し議論が必要と考える。

2018年11月1日更新

【寄稿】改正JAS法成立

(一社)食品品質プロフェッショナルズ 古川 哲也

「改正JAS法成立 民間の規格提案可能に 18年6月施行見通し」(みなと新聞 2017年6月20日付;http://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/70143)との発表がありました。

現在、鰹節業界でHACCPを取得しているのは削り節の会社が主であり、その原料となる荒節、本枯れ節を製造している会社でHACCPを取得している会社は殆ど存在しません。
QPFSでは既に鰹節2大産地、指宿の本枯れ節製造工場、焼津の荒節製造工場へ訪問し、鰹節HACCPのモデルケースを作り上げ、「食品と科学」、「アイソス」にて発表をしております。それらの鰹節HACCPは国内版であり、ベンゾピレンに関しては触れておりませんが、海外版はEU輸出を想定したものを計画しており、それには最終製品でベンゾピレンが基準以下である事を証明しなければなりません。ベンゾピレンを基準以下にする製造方法を採用すると本来の鰹節の味ではなくなり、その逆であると、ベンゾピレンの規制値を超えてしまい輸出ができず、どの様な鰹節HACCPの構築を進めたら良いものか、行き詰まっておりました。
ネットで公開されている記事によると、民間による規格設定が可能になる様ですので、鰹節の良さを海外にアピールできるチャンスかと思われます。削り節の摂取量や、出汁の取り方などの使用方法を新たにJAS化したりする事で、近い将来、輸出が加速していく事を望んでおります。
2018年施行まであと1年です。鰹節業界のHACCPの構築、取り組みは急務であり、鰹節HACCPが出来ていなければ、和食のHACCPも本当の意味で成り立ちません。QPFSも鰹節HACCP構築のために応援したいと思います。
工場訪問をした際、指宿鰹節会社の社長も、焼津鰹節会社の社長も、自分の会社で製造した鰹節には自信と誇りをもっています。EUがベンゾピレンを理由に受入拒否をするのであれば、自分たちの製造方法を変えてまでEUに輸出する必要はない。自分達の鰹節を評価してくれるところに出したいと話していた事が印象的でした。私も水産加工関連の会社におりましたので、その物作りに対する熱意、考え方には共感させられるものがありました。日本の職人、その様な気概は大切で無くしてはならないものです。

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