【寄稿】カカオの育成とチョコレート製造<後編>

(一社)食品品質プロフェッショナルズ 矢野 真理子

チョコレートの製造

 ダークチョコレートは主に、砂糖、カカオマスやココアバターから(ミルクチョコレートの場合、粉乳も)つくられます。製造にあたり、チョコレート中にざらつくような粒子(数十μm以上)を残さないようにする必要があります。微粒化した原材料を使用する場合も考えられますが、工業的にはチョコレートの各原材料を混合してペースト状にした後、レファイナーのそれぞれ回転するロール間の隙間を通して、含まれる固体粒子を粉砕する場合が多いです。粉砕された原料は、コンチェで撹拌回転して練り上げられ、練り上げにより粘度が低下して流動性が付与され、液体のチョコレートとなります。併せて揮発性物質の揮散や均一化による香味変化も生じます。
 液状のチョコレートは、ココアバターが形成しうる複数種類の結晶多形のうち、求める物性の結晶として結晶化させるため、複数段階での温度調整と撹拌といったテンパリングを経て、成型されてから適切に冷却され、チョコレートとなります。

ココアバターの結晶多形とテンパリングについて

 カカオマスには、55%程度の油脂分(ココアバター)が含まれており、ココアバターは他の油脂同様、グリセロール骨格に三分子の脂肪酸が結合した、トリアシルグリセロールの混合物です。うち80%程度が、グリセロール骨格の2-位(2番目の炭素)に不飽和脂肪酸のオレイン酸、1-位と3-位に飽和脂肪酸(主にステアリン酸もしくはパルミチン酸)が結合した構造で、これらが形成する混晶が、多形現象を含めたココアバターの性質を決定しています。
 ココアバターには、6種類の結晶多形が存在し(最新の研究では、うち2種類が中間的な多形で同じとみなせるため5種類との報告もある)チョコレート業界では、1996年にWille and Luttenに命名されたⅠ~Ⅵ型が用いられることが多いです。結晶はⅠ~Ⅵの数字が大きいほど融点が高く、密な構造で安定な結晶です。Ⅰ~Ⅵのうち、割った際の良好なスナップ性とツヤを持つ結晶はⅤ型(融点32~34℃、比較的安定)のみであり、結晶粒径が細かく、口どけがなめらか、室温で溶解しにくく口の中で溶ける融点も含め、テンパリングにおいては、Ⅴ型として結晶化させる必要があります。
 なお、不適切なテンパリングで、Ⅳ型として結晶化させた場合、比較的柔らかくスナップ性がないチョコレートとなり、またⅣ型は時間とともにⅤ型に転移しますが、その際、固体粒子間の油脂が一部表面へと押し上げられ、ブルームが生じます。なおⅥ型(融点34~36℃)はⅤ型より安定ですが、通常の条件で液状のココアバターからは直接Ⅵ型の結晶とはならず、固相転移でのみ生成します。つまりⅤ型として適切に結晶化されたチョコレートも、数か月~数年等の長期保存でゆっくりとⅥ型に転移し、その際ブルームが生じます。

 実際のチョコレートには、砂糖他、ココアバター以外にも原材料が使われるため、分子構造はより複雑です。

2019年5月7日 更新