【寄稿】石坂公成博士とウルリッヒ・ベック博士

(一社)食品品質プロフェッショナルズ理事 西山 哲郎

 石坂博士が、2018年7月6日に逝去された。私は、石坂博士について、それほど詳しいわけではない。ただ、アレルギー関連の文献を読む中で、免疫学者である石坂博士が、1966年に食物アレルギーだけでなく、喘息の原因ともなる免疫グロブリンE(IgE)を発見したことは知っていた。石坂博士は、米国の大学で研究され、研究所の所長にもなったが、共同研究者であり妻である石坂照子博士の希望もあり、70歳で引退すると、照子博士の故郷である山形県での生活を始める。
 IgEの発見とアレルギー発症の機序解明により、数々の賞を授賞され、ノーベル賞候補にもなった。石坂博士の発見がなければ、アレルギーというもの自体が解明されていなかったわけで、その貢献を考えるとノーベル賞でも足りなかったと思われる。かくいう私も喘息症状があり、現在は発作を抑える薬で日常生活をおくることができるが、これも石坂博士がIgEを発見してくれたおかげである。
 IgEの発見は、夫婦の共同研究によるものであるが、研究途上で、夫婦がお互いにIgEを背中に注射していたとのことで、ジェンナーの種痘開発を思い起こされる。

 ドイツのウルリッヒ・ベック博士は、2015年1月1日に逝去された。ベック博士は、リスクについての大家であり、チェルノブイリ原発以降の危険社会について、様々な考察をされてきた。ベック博士は、リスクに関する社会学者であり、石坂博士は免疫学者であるので、直接のつながりはない。
 しかしながら、ベック博士の妻も社会学者であるエリザベート ベック=ゲルスハイム博士であり、共著「愛は遠く離れて~グローバル時代の「家族」のかたち」など共同研究者でもあった。
 「愛は遠く離れて」はベック博士夫妻の愛情について書いた本ではなく、家族制度が変容し、家族が血縁から変質していることを指摘している。一方で、私はまだ読んではいないが、石坂博士は、「結婚と学問は両立する~ある科学者夫妻のラブストーリー」という著書を2002年に出版されている。こちらは、ご夫婦の話なのだろう。ベック博士は、元旦に公園を散歩中に、夫婦で次の著作について話している最中に心臓発作でなくなっている。遺作である「変態する世界」は、エリザベート ベック=ゲルスハイム博士を中心にまとめられた。

 石坂博士とベック博士は研究分野も異なれば、年齢も異なるが、夫婦で研究を続け、おそらく円満な夫婦であったことが共通している。また、講演会などお話を聞きに行こうと思えば、機会はいくらでもあったのに、雑事にかまけて後回しにしてしまったことは、私にとって痛恨の極みである。


2018年12月1日更新